【第1回虫草調査】
−採取日時−
日付 平成14年7月5日※
採取時間 14時〜17時
場所 仙台市内某所 (←クリック)
気温 26度
湿度 90%
天候 薄曇り
服装 普段着・作業着
装備 ピンセット・ルーペ(×10)・採取用タッパー・割り箸・蚊取り線香・虫除け
参加者 職員3名,学生5名,矢萩信夫氏
※虫草採取の季節としては時期的に早い(東北以北に限る).

−採取にあたって−
採取場所 1)一部の虫草を除いて,採取は気温と湿度が高い夏場を採取時期とする.
2)原生的な天然林がある場所が望ましい.東北では冷温帯落葉広葉樹林(ミズナラ・コナラ・クヌギなど)あるいは針葉樹との混成林でも可.ただし,針葉樹林帯,植樹林,農薬散布や下草刈りなどが行われた森林は不可.
3)前日に雨が降るなどして水分を十分に含んだ腐葉土の堆積した箇所.但し,極端な湿地は不可.
採取のポイント 1)担子菌のキノコとは違い,虫草の子実体はその大半が非常に小さいもの(数ミリから1〜2センチ程度)なので,森林の広域を探査するのではなく,上述のポイントを入念に探索する.
2)土中から発するものが大半を占めるが,クモタケやハチタケ,あるいはカイガラムシタケのように樹上に発生するものもあるので,足下ばかりに気を取られないようにする.
3)虫草が一つ見つかると,芋蔓式に発見できる場合があるので,発見箇所を踏み荒らさずに丹念にチェックする.
4)虫草が発見された場所は,環境変化がなければ翌年にも発生する可能性がある.
5)虫草は活物寄生菌であるから,必ず寄生宿主を掘り当てなければならない.
6)寄生宿主(昆虫・植物など)の発見までに至れば,子実体をルーペ(×10)などで観察し,胞子果の形成があるかを確認する.
注意 1)自然形態を破壊する行為(タバコやゴミの投げ捨て,動植物の持ち去り)は厳に慎む.
2)天候の急変に注意し山道に迷わないようにする.
3)スズメバチ・マムシ・イノシシ・クマ・ツツガムシなどに注意.

−採取の実際−
写真はクリックすると拡大します(但し,画像は重いので読み込みに時間がかかります)


山道の斜面を入念に探索したところ
オレンジ色の子実体が枯れ葉から突出しているのが見えた.ルーペで子実体を観察した結果,子嚢果をつける完全世代で,胞子果が形成されていた.


第一の虫草発見箇所から近い場所で同じ個体を見いだした.黄色矢印は子実体に分布する胞子果の位置を示す.


3個体目の虫草


広葉樹の枯れ葉の上に「カビ状」のものが発生してた(採取現場の写真なし).枯れ葉を除去して,内部を確認したところ,カビではなく虫草であることが判明した.


別の角度から見た第2個体目の虫草.虫草菌の寄生宿主は明らかに鱗翅目の蛹であることがわかる.この虫草の子実体は子嚢果を形成しない分生胞子型の虫草である.


虫草採取において最も重要なのは,寄生宿主を見いだすことにある.寄生宿主が見つからなければ,虫草菌の種類を決定することはできないので,慎重に掘削し寄生宿主を探す.


写真6では割り箸で,写真7ではピンセットを用いて寄生宿主の掘り起こしを行っている.虫草の「柄」の部分は脆弱なため,寄生宿主に辿り着く前に子実体を切断してしまうおそれがある.そのため,少々広く深めに採掘する.


宿主に付着した泥を除流水で去し,虫草がどのような寄生宿主から発生するかを観察する.流水がきつすぎると子実体が崩壊するので注意する.洗滌する人は矢萩氏.


第1個体の虫草の全体像.
鑑定の結果,鱗翅目の蛹から発生するサナギタケ(Cordyceps militaris L.)であることが判明した.
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同じ C. militaris L. を別の角度から見たもの.地上に顔を覗かせていた子実体(写真1)は,虫草全体のほんの一部にすぎないことがわかる(スケールバーも参照).
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第二個体の虫草は,これも鱗翅目の蛹から発生する虫草で,ハナサナギタケ(Isaria jponica Yasuda)であることがわかった.
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採取した虫草類は,中性ホルマリン水溶液中に浸し保存する.ホルマリンがなければ,エタノールでもよい.ただし,子実体特有の色は,水溶性(色素本体の成分は不明)のものが多く,色素が溶出して保存の段階で退色する.従って,標本化する前に写真を必ず撮影する.

−まとめ−
 7月上旬の仙台の気候は,いつもの年であれば「山背」が吹いて肌寒い日が多く虫草採取には不適であるが,本年は植物の生長や昆虫類の発生が例年よりも半月から1ヶ月ほど早く,また比較的温かい日が続くなどのしていたため虫草採取を実施した.採取場所は,一昨年にセミのツクツクボウシの幼虫から発生するツクツクホウシタケ(Isaria sinclarri (Berk.) Llond)を10数体以上採取した実績がある箇所であり,今回もツクツクホウシタケの採取をねらって調査した.しかし本菌の発生は全く認められなかった.これはツクツクホウシの発生と密接に関係があり,セミの発生が7月下旬頃であることから,今よりしばらく後には本菌の採取が可能であると思われる.当該調査ではツクツクホウシタケにかわって,サナギタケ(Cordyceps militaris Linne)とハナサナギタケ(Isaria japonica Yasuda)を5個体見いだすことができた.これらの二つの菌はいずれも,鱗翅目のガの蛹に寄生する共通性がある.しかし,サナギタケは完全世代の子実体を形成するのにたいして,ハナサナギタケは分生胞子の子実体を形成する.短時間のうちに多くのサナギタケを採取することができたのは,採取時期がガの羽化時期に重なっていたことが考えられる.実際に,採取箇所の腐葉土中には多数のガ(メイガ科?)の蛹が確認できた.
 サナギタケを人工培養した培養濾液からは核酸誘導体(プリンアナログ)のcordycepin (3'-deoxyadenosine)がとられており,細胞のDNA合成を止める作用があることからガンの化学療法においてcombination therapyが試みられ,腫瘍退縮が著しいなどの良好な結果が得られている(Foss F.M. Combination therapy with purine nucleoside analogs. (review) Oncology 14: 31-35, 2000).虫草類の医薬研究における応用学問は始まったばかりであり,虫草は今後の医薬品開発のためのソースとして期待される菌類である.
 文責:高野文英