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本事業の目標

全体計画

有機化学は、物質、生命、医療、環境、エネルギーから材料科学まで、広範な学術領域の本質に関与する基礎学問であり、医薬・農薬、食品、化学、電子・電気、自動車工業など世界の基幹産業に密着して人類と現代文明の発展を支えてきた。

有機化学を基盤とする学術領域は、歴史的にはヨーロッパ・北米に勃興し、その発展を先導する指導的人材育成の拠点は欧米の研究機関を中心に形成され、我が国を始めとするアジア諸国は欧米に追随するかたちで学術環境を整備・拡充させてきた。近年、化学産業のグローバル化が進み、特にアジア地域での経済交流が活性化し、アジア諸国の経済成長と学術環境の急速な発展を促してきた。一方、資源・エネルギー、食糧、環境、新興・再興感染症の抑止等、世界的規模で喫緊の対策が求められる諸問題が顕在化し、その解決のため化学には一層の力量向上が求められている。

発展著しいアジア諸国に次世代の有機化学を先導する人材育成に資する研究拠点を創生することは、アジア地域のみならず人類の持続的な発展に貢献する事業と位置付けられる。本事業は、日本学術振興会アジア研究教育拠点事業(Asian Core Program)において形成された、日本を中心とした、中国、韓国、台湾、シンガポール、タイ、マレーシアの7カ国拠点からなる研究交流基盤を活用し、産業界と連携を図りつつ次世代を担うアジア若手研究者を育成するための研究交流プログラムを実施して、アジア発の知の創出を先導する世界的有機化学研究拠点の形成を目指すものである。

平成29年度 研究交流目標

1.研究協力体制の構築

研究協力体制の点検:平成29年4月8日に国内拠点代表者による運営会議を東京にて開催して、本プログラムの最終年度にあたる平成29年度の研究交流内容の点検を行う。参加国国際拠点リーダーの世代交代、研究教育環境の変動を受けて平成27年度に発足した本国際協力体制の実状と研究交流による成果が、2年間の活動を経て、所期に掲げた目標に適う水準に達していることを踏まえ、次世代を担うアジアの若手研究者を育成するべく実施する研究交流プログラムと、アジア有機化学最先端研究拠点の実体となる研究交流ネットワークを継承・発展させるための協力体制について議論する。特に、10月30日〜11月1日に中国・Lanzhou大学で開催予定のThe 7th Junior International Conference on Cutting-Edge Organic Chemistry in Asia/The 3rd Junior Advanced Research Network on Cutting-Edge Organic Chemistry in Asia (Junior ICCEOCA-7/Junior ARNCEOCA-3)の実施に向けた協力体制について協議する。また、11月2日〜5日に中国・西安市Shaanxi Normal Universityで開催予定の国際シンポジウムThe 12th International Conference on Cutting-Edge Organic Chemistry in Asia/3rd Advanced Research Network on Cutting-Edge Organic Chemistry in Asia(ICCEOCA-12/ARNCEOCA-3)にて国際運営会議を開き、研究協力体制の一層の強化を図る。

2.学術的観点

本拠点形成事業の趣旨を周知してアジア地域で活躍する世界的研究者を招聘して、国際シンポジウムThe 12th International Conference on Cutting-Edge東北大学:Organic Chemistry in Asia/3rd Advanced Research Network on Cutting-Edge Organic Chemistry in Asia(ICCEOCA-12/ARNCEOCA-3)をShaanxi Normal University・Dong Xue教授をオーガナイザーとして2017年11月2日〜5日に中国・西安市で開催する。アジアにおいて最先端有機化学を先導するトップレベルの研究者を招聘して、触媒開発、人工光合成、太陽電池などの機能性材料開発、医薬開発を含む天然物化学、ケミカルバイオロジーなどの分野の発表・討論を行う。本研究交流を基盤として展開された共同研究の成果を発表し、アジア研究教育拠点事業から継承して12年連続で開催されている本シンポジウムの重要性を総括するとともにさらなる交流発展を目指す。

3.若手研究者育成

アジア最先端有機化学シンポジウムの開催時期に連動させて、大学院生および博士研究員を対象としたジュニア・シンポジウムを合宿形式で開催し、英語口頭発表と国際交流の機会を与える。シンポジウムの開催期間と参加人数を考慮して、できるだけ多くの参加者に口頭発表の機会を与える。優れた発表を行った学生・研究者にYoung Chemist Awardを授賞して顕彰する。授賞者には、「アジア最先端有機化学シンポジウム」、あるいは各拠点が実施する「国際サマースクール」に招待して顕彰するとともに、国際インターンシップ交流事業への推薦等、短期研究交流の機会を授与する。

4.その他(社会貢献や独自の目的等)

平成27-28年度事業で強化した研究交流ネットワークを活用して、本事業に参画する拠点研究者相互の協力体制構築を進め、若手研究者に対する最先端研究手法、技術を修得するための海外研修の機会を提供する。要望に応じて、化学系企業、化学関連産業への見学会、インターンシップの機会の提供等、柔軟に国際交流の機会を設けて、社会が求める人材育成への貢献を図る。


平成29年度 研究交流成果

1.研究協力体制の構築状況

本事業の実施を通じて、先に日本学術振興会アジア研究教育支援事業ならびにアジア研究教育拠点事業において形成された学術交流ネットワークを発展・強化した。平成29年4月および平成30年3月に国内拠点代表者会議を東京で開催し、3年間の研究期間における活動内容と実績を点検し、計画通りに事業が推進されたことを確認した。また、11月に中国で開催したアジア最先端有機化学国際会議において、日本拠点、中国拠点、韓国拠点、台湾拠点、香港拠点、タイ拠点、シンガポール拠点、マレーシア拠点の代表者による3回の国際ビジネスミーティングを行い、平成30年度以降の活動計画を策定するとともに平成30年度以降の研究交流と研究協力体制について協議し、基本方針を確認した。 

2.学術面の成果

平成29年11月1日〜4日に中国・Shannxi Normal University・Dong Xue教授をオーガナイザーとして、アジア地域で活躍する世界的研究者を招聘して、国際シンポジウムThe 12th International Conference on Cutting-Edge on Cutting-Edge Organic Chemistry in Asia/3rd Advanced Research Network on Cutting-Edge Organic Chemistry in Asia(ICCEOCA-12/ARNCEOCA-3)を中国・西安市で開催した。148名の参加登録者があり、日本からは27名が参加した。アジアにおいて最先端有機化学を先導するトップレベルの研究者が一堂に会して、触媒開発、人工光合成、太陽電池などの機能性材料開発、医薬開発を含む天然物化学、ケミカルバイオロジーなどの分野の発表・討論を行い、本領域の最新の研究成果と学術情報を交換した。アジア研究教育拠点事業から継承して12年連続で開催されている本シンポジウムの重要性は参加各国研究者に浸透しており、本研究交流を基盤とした共同研究など、さらなる交流発展が期待された。 平成28年10月に本事業の一環として韓国で開催した第11回アジア最先端有機化学国際会議において、日本拠点から授賞したレクチャーシップ賞受賞者を11名を招聘して、国内各拠点の研究者と学術研究交流を行った。また、海外拠点からレクチャーシップ賞を受賞した本事業参加研究者のべ18名を、中国拠点、韓国拠点、台湾拠点、香港拠点、タイ拠点、シンガポール拠点、マレーシア拠点に派遣し、現地での学術講演と研究討論を通じてアジア有機化学拠点における研究交流体制を強化するとともに、アジア地域の創薬科学研究ネットワーク構築や若手研究者育成等について意見交換を行った。  共同研究として、(1) 東北大学とNational Chung Hsing University、 (2)東北大学とNational Center for Genetic Engineering and Biotechnolog、(3) Chulabhorn Research Institute、(4)千葉大学とNational University of Singapore、(5) 名古屋大学とChulalognkorn Universityにおいて研究交流が進められ、その研究成果の一部が国際的学術誌に公表されるとともに、論文発表のための学術的知見が収集された。  

3.若手研究者育成

The 12th International Conference on Cutting-Edge on Cutting-Edge Organic Chemistry in Asia/3rd Advanced Research Network on Cutting-Edge Organic Chemistry in Asia(ICCEOCA-12/ARNCEOCA-3)でのレクチャーシップ賞は若手研究者を優先して選考して、各国相互にレクチャーシップツアーに招聘して次世代を担う人材の育成を図った。 国外拠点コーディネーターと国内協力機関代表者と協力して、優れた若手研究者を国際シンポジウムに派遣するように要請して、英語プレゼンテーションの機会を提供するとともに国際感覚の涵養に努めた。具体的には、中国・Lanzhou大学・Chunan Fan教授をコーディネーターとして、本拠点形成事業の趣旨に基づいて派遣された大学院生を対象とした国際シンポジウムThe 7th Junior International Conference on Cutting-Edge Organic Chemistry in Asia/The 3rd Junior Advanced Research Network on Cutting-Edge Organic Chemistry in Asia (Junior ICCEOCA-7/Junior ARNCEOCA-3)を10月29日〜31日を開催した。7カ国47名の学生が参加し、口頭発表ならびにポスター発表を行った。日本からは学生9名、教員2名が参加した。優秀発表者に講演発表賞(7名)、ポスター発表賞(9名)がそれぞれ授与された。

4.その他(社会貢献や独自の目的等)

The 12th International Conference on Cutting-Edge on Cutting-Edge Organic Chemistry in Asia/3rd Advanced Research Network on Cutting-Edge Organic Chemistry in Asia(ICCEOCA-12/ARNCEOCA-3)でのレクチャーシップ賞は若手研究者を優先して選考して、各国相互にレクチャーシップツアーに招聘して次世代を担う人材の育成を図った。 本事業を通じて強化した研究交流ネットワークを活用して、各拠点に関係する研究者相互の協力体制構築を進め、若手研究者に対する最先端研究手法、技術を修得するための機会を提供した。 本プログラムの最終年度にあたり、海外拠点、国内拠点代表者とともに、これまでの本事業の成果を点検・分析した結果、本事業が所期に掲げた目標に添って、アジア地区における有機化学研究交流ネットワークが着実に発展していることを確認した。このことを受け、次年度以降も日本が中心となってさらなる発展を目指すことを全拠点代表者が合意し、平成30年4月以降は北海道大学理化学研究科・澤村正也教授を代表として活動を継続することを決定した。

5.今後の課題・問題点

日本が先導してアジア地区に形成してきた最先端有機化学研究拠点を定着させ、欧米拠点と協力して世界的な知の循環ネットワークへと発展させるためには、参加国研究者との定期的な人的交流に基づく信頼関係の構築が必須である。特に変化が著しい有機化学関連領域においては、日本が果たしてきた歴史的意義を踏まえ研究者の世代交代に耐え得る強力な国際交流ネットワークの形成を図るとともに、学際領域に生まれつつある新しい学術分野を取り込む求心力を日本拠点が持ち続けることが求められる。科学技術立国を目指す社会の要請を受け止め、物質文明の持続的発展を実現するために、次世代を担う若手研究者の育成と支援が急務であり、そのための財源の確保や、他の財源との連携など、本活動を持続するための仕組み作りを進めなければならない。

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