研究内容

当研究室では、「自然免疫」「免疫記憶」「腸管恒常性」「発生・再生」に関する研究を行なっています。分子遺伝学・生化学・細胞生物学などの手法を利用し、ショウジョウバエを用いた個体のレベルや、ヒトなどの細胞を用いた細胞のレベル、そしてそこで機能する分子のレベルで研究しています。 生物が普遍的に有している機構の分子基盤を明らかにすることで、「生命の持つ機能」に迫ります。

自然免疫  病原体認識と免疫応答活性化機構に関する研究

自然免疫は、全ての生物が有している感染防御機構です。哺乳動物では、感染の最前線で働くと同時に、獲得免疫の活性化にも重要です。当研究室では、世界に先駆けて、ショウジョウバエの病原体センサーであるペプチドグリカン認識蛋白質(PGRP)-LEを同定しました。PGRP-LEは、体液中で働き自然免疫応答を活性化すると同時に、細胞内でも機能する病原体センサーです。PGRP-LEは、抗菌ペプチドの産生を誘導すると同時に、オートファジーを誘導して細胞内寄生細菌の排除を行う事が明らかとなりました。

新たな自然免疫受容体Gyc76Cを同定し、Gyc76Cが新規cGMP経路を介して自然免疫応答を調節していることを明らかにしました。同様のcGMP経路が、ヒト細胞でも免疫応答を調節していることが明らかとなっています。このほかに、神経系による免疫制御に関する研究や、共生細菌が宿主にウイルス抵抗性を付与する機構などについて研究しています。

参考文献

倉田祥一朗:実験医学増刊「感染症のサイエンス」27, 212-217, 2009.

Yano et al. Nature Immunol. 9, 908-916, 2008.

Kumada et al. Biochem. Biophys. Res. Commun. 513, 947–951, 2019.

Kanoh et al. iScience 24, 103473, 2021.

Fuse et al. Front. Immunol. 14, 1268611, 2023.

免疫記憶  感染を記憶し二度目の感染に備える機構に関する研究

基本的な免疫システムである自然免疫には、長年、獲得免疫のような免疫記憶の仕組みが存在しないと考えられてきましたが、近年、ヒトを含めた様々な生物で「自然免疫の記憶」が確認されています。しかし、そのメカニズムの全容は明らかではありません。ゲノム、エピゲノム、トランスクリプトームを統合的に解析することで、「自然免疫の記憶」のメカニズムを明らかにすることを目指しています。

参考文献

Tang et al. Front. Immunol. 13, 857707, 2022.

Fuse et al. PLOS Genet. 19, e1010005, 2022.

Tang et al. Microbiol. Immunol. 67, 355–364, 2023.

布施直之:生化学 96, 277-280, 2024.

腸管恒常性  腸管上皮組織の損傷応答と老化による機能低下に関する研究

体の「内なる外」とも呼ばれる腸管は、外界からの病原体侵入のバリアとして重要です。経口摂取した化学物質や病原体は腸管上皮を頻繁に損傷しますが、これが適切に修復されることで、腸管上皮組織は恒常性を維持しています。

当研究室では、炎症性腸疾患の遺伝的要因であるオートファジー不全が腸管上皮組織にもたらす病態とその原因を、ショウジョウバエをモデル系として検討し、オートファジーが不全になると、腸内常在菌に対して生じてしまう不要な修復応答を抑制できなくなることで、腸管恒常性が破綻することを明らかにしています。こういった制御された修復応答の機構や、老化、ストレス、腸内細菌による腸管恒常性破綻の機構を研究しています。

参考文献

Nagai et al. Genes Cells 25, 343–349, 2020.

Nagai et al. Dev. Cell 56, 81-94, 2021.

Nagai et al. Autophagy 17, 1057–1058, 2021.

発生・再生  器官形成プログラムの決定と維持、その改変に関する研究

当研究室では、ショウジョウバエの複眼になる細胞を操作して、複眼を翅、触角、肢へと改変することに成功しています。この改変系を用いて、複眼を翅に改変する遺伝子を同定し、Winged eyeと名付けました。Winged eyeは、遺伝情報の読み出し方を規定するエピジェネティックな制御に関わることが明らかとなっています。また、器官改変頻度を著しく上昇させることのできる遺伝子も同定しています。このような研究から、三次元的な器官構築を伴った再生医療を効率良く行うための、新たな手法の開発に手がかりが得られることを期待しています。

参考文献

倉田祥一朗:ファルマシア 44, 1059-1062, 2008.

Katsuyama et al. PNAS. 102, 15918-15923, 2005.

Ozawa et al. Genes Cells 21, 442-456, 2016.

Masuko et al. Cell Rep. 22, 206-217, 2018.

Nemoto et al. Genes Cells 28, 857-867, 2023.

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