虫草採取時の状況 | |
日付 | 平成14年7月5日(虫草採取の季節としては時期的に早い(東北以北に限る)) |
採取時間 | 14時~17時 |
場所 | 仙台市内 |
気温 | 26度 |
湿度 | 90% |
天候 | 薄曇り |
服装 | 普段着・作業着 |
装備 | ピンセット・ルーペ(×10)・採取用タッパー・割り箸・蚊取り線香・虫除け |
参加者 | 職員3名、学生5名、矢萩信夫氏 |

採取の実際

写真11
第二個体の虫草は、これも鱗翅目の蛹から発生する虫草で、ハナサナギタケ(Isaria jponica Yasuda)であることがわかりました。
写真12
採取した虫草類は、中性ホルマリン水溶液中に浸し保存します。ホルマリンがなければ、エタノールでも構いません。ただし、子実体特有の色は、水溶性(色素本体の成分は不明)のものが多く、色素が溶出して保存の段階で退色します。従って、標本化する前に写真を必ず撮影します。まとめ
7月上旬の仙台の気候は、いつもの年であれば「山背」が吹いて肌寒い日が多く虫草採取には不適ですが、本年は植物の生長や昆虫類の発生が例年よりも半月から1ヶ月ほど早く、また比較的温かい日が続くなどのしていたため虫草採取を実施しました。
採取場所は、一昨年にセミのツクツクボウシの幼虫から発生するツクツクホウシタケ(Isaria sinclarri (Berk.) Llond)を10数体以上採取した実績がある箇所であり、今回もツクツクホウシタケの採取をねらって調査しました。しかし本菌の発生は全く認められませんでした。これはツクツクホウシの発生と密接に関係があり、セミの発生が7月下旬頃であることから、今よりしばらく後には本菌の採取が可能であると思われます。
当該調査ではツクツクホウシタケにかわって、サナギタケ(Cordyceps militaris Linne)とハナサナギタケ(Isaria japonica Yasuda)を5個体見いだすことができましたあ。これらの二つの菌はいずれも、鱗翅目のガの蛹に寄生する共通性があります。しかし、サナギタケは完全世代の子実体を形成するのにたいして、ハナサナギタケは分生胞子の子実体を形成します。短時間のうちに多くのサナギタケを採取することができたのは、採取時期がガの羽化時期に重なっていたことが考えられます。実際に、採取箇所の腐葉土中には多数のガ(メイガ科?)の蛹が確認できました。
サナギタケを人工培養した培養濾液からは核酸誘導体(プリンアナログ)のcordycepin (3′-deoxyadenosine)がとられており、細胞のDNA合成を止める作用があることからガンの化学療法においてcombination therapyが試みられ、腫瘍退縮が著しいなどの良好な結果が得られています(Foss F.M. Combination therapy with purine nucleoside analogs. (review) Oncology 14: 31-35, 2000)。
虫草類の医薬研究における応用学問は始まったばかりであり、虫草は今後の医薬品開発のためのソースとして期待される菌類です。
文責:高野文英