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虫草採取時の状況
日付平成14年7月5日(虫草採取の季節としては時期的に早い(東北以北に限る))
採取時間14時~17時
場所仙台市内
気温26度
湿度90%
天候薄曇り
服装普段着・作業着
装備ピンセット・ルーペ(×10)・採取用タッパー・割り箸・蚊取り線香・虫除け
参加者

職員3名、学生5名、矢萩信夫氏

採取の実際


写真1

山道の斜面を入念に探索したところオレンジ色の子実体が枯れ葉から突出しているのが見えます。ルーペで子実体を観察した結果、子嚢果をつける完全世代で、胞子果が形成されていました。

写真2

第一の虫草発見箇所から近い場所で同じ個体を見いだしました。黄色矢印は子実体に分布する胞子果の位置を示します。

写真3

3個体目の虫草。

写真4

広葉樹の枯れ葉の上に「カビ状」のものが発生していました(採取現場の写真なし)。枯れ葉を除去して、内部を確認したところ、カビではなく虫草であることが判明した。

写真5

別の角度から見た第2個体目の虫草、虫草菌の寄生宿主は明らかに鱗翅目の蛹であることがわかります。この虫草の子実体は子嚢果を形成しない分生胞子型の虫草です。

写真6

虫草採取において最も重要なのは、寄生宿主を見いだすことにあります。寄生宿主が見つからなければ、虫草菌の種類を決定することはできないので、慎重に掘削し寄生宿主を探します。

写真7

写真6では割り箸で、写真7ではピンセットを用いて寄生宿主の掘り起こしを行っています。虫草の「柄」の部分は脆弱なため、寄生宿主に辿り着く前に子実体を切断してしまうおそれがあります。そのため、少々広く深めに採掘します。

写真8

宿主に付着した泥を流水で除去し、虫草がどのような寄生宿主から発生するかを観察します。流水がきつすぎると子実体が崩壊するので注意します。洗滌する人は矢萩氏。

写真9

第1個体の虫草の全体像。鑑定の結果、鱗翅目の蛹から発生するサナギタケ(Cordyceps militaris L.)であることが判明しました。

写真10

同じ C. militaris L. を別の角度から見たもの。地上に顔を覗かせていた子実体(写真1)は、虫草全体のほんの一部にすぎないことがわかります(スケールバーも参照)。

写真11

第二個体の虫草は、これも鱗翅目の蛹から発生する虫草で、ハナサナギタケ(Isaria jponica Yasuda)であることがわかりました。

写真12

採取した虫草類は、中性ホルマリン水溶液中に浸し保存します。ホルマリンがなければ、エタノールでも構いません。ただし、子実体特有の色は、水溶性(色素本体の成分は不明)のものが多く、色素が溶出して保存の段階で退色します。従って、標本化する前に写真を必ず撮影します。

まとめ

 7月上旬の仙台の気候は、いつもの年であれば「山背」が吹いて肌寒い日が多く虫草採取には不適ですが、本年は植物の生長や昆虫類の発生が例年よりも半月から1ヶ月ほど早く、また比較的温かい日が続くなどのしていたため虫草採取を実施しました。
 採取場所は、一昨年にセミのツクツクボウシの幼虫から発生するツクツクホウシタケ(Isaria sinclarri (Berk.) Llond)を10数体以上採取した実績がある箇所であり、今回もツクツクホウシタケの採取をねらって調査しました。しかし本菌の発生は全く認められませんでした。これはツクツクホウシの発生と密接に関係があり、セミの発生が7月下旬頃であることから、今よりしばらく後には本菌の採取が可能であると思われます。
 当該調査ではツクツクホウシタケにかわって、サナギタケ(Cordyceps militaris Linne)とハナサナギタケ(Isaria japonica Yasuda)を5個体見いだすことができましたあ。これらの二つの菌はいずれも、鱗翅目のガの蛹に寄生する共通性があります。しかし、サナギタケは完全世代の子実体を形成するのにたいして、ハナサナギタケは分生胞子の子実体を形成します。短時間のうちに多くのサナギタケを採取することができたのは、採取時期がガの羽化時期に重なっていたことが考えられます。実際に、採取箇所の腐葉土中には多数のガ(メイガ科?)の蛹が確認できました。
 サナギタケを人工培養した培養濾液からは核酸誘導体(プリンアナログ)のcordycepin (3′-deoxyadenosine)がとられており、細胞のDNA合成を止める作用があることからガンの化学療法においてcombination therapyが試みられ、腫瘍退縮が著しいなどの良好な結果が得られています(Foss F.M. Combination therapy with purine nucleoside analogs. (review) Oncology 14: 31-35, 2000)。
 虫草類の医薬研究における応用学問は始まったばかりであり、虫草は今後の医薬品開発のためのソースとして期待される菌類です。

文責:高野文英