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虫草採取時の状況
日付平成14年9月2日
採取時間14時~16時
場所仙台市内
気温24度
湿度75%
天候薄曇り
服装普段着・作業着
装備ピンセット・採取用タッパー・割り箸
参加者職員3名,学生2名

採取の実際


写真1

ハナサナギタケ(Isaria japonica)を採取。

写真2

寄生宿主の虫体は体長10 mm強の鱗翅目の蛹でした。

写真3

ツクツクホウシタケ(Isaria sinclarri (Berk.) Llond)を発見担子器(シンネマ)から分生子(胞子)を飛散させているのがわかります(ピンクの矢印)。

写真4

ツクツクホウシタケはハナサナギタケと同様に分生胞子型の子実体を形成します。

写真5

ツクツクホウシタケを採取中。ピンセットで広範囲の土を掘り起こします。

写真6

子実体から寄生宿主の虫体まで、ずいぶんと長い柄で連結しているのに注目。

写真7

緑の矢印は蝉の幼虫が棲息していた「室」です。室内部の壁に菌糸体が伸長しているのがわかります。

写真8

寄生宿主はツクツクホウシではありませんが、「ツクツクホウシタケ」と命名されているところがおもしろい。

写真9

別に見いだされたツクツクホウシタケの2個体。

写真10

種々の蝉の幼虫に寄生する「ツクツクホウシタケ」。

まとめ

 第2回目の虫草採取は第1回目に実施した箇所と同じ場所で行いました。先の採取では、サナギタケとハナサナギタケを採取することができましたが、今回は例年通り、ツクツクホウシタケを大量に採取することができました。今年は例年になく暑い日が続いたため、子実体は完熟傾向にあり、既に分生胞子を飛散させてているものもありました。虫草菌の場合、胞子が飛散しはじめる頃には寄生宿主の虫体から虫草菌の菌核が退縮し、これよりしばらくすると子実体は寄生宿主から分離してしまい、ついには子実体の自己融解が起こり、跡形もなく消滅してしまいます。今回の採取では、数こそ多いが採取時期を半ば逃した状況であるといえます。なお、7月に採取可能であったサナギタケは確認されませんでした。
 ツクツクホウシタケ(Isaria sinclarri (Berk.) Llond)は、その命名からしてツクツクホウシの幼虫に特異的に寄生し、発生する虫草菌のように思われますが、Photo 10 に示したように、ヒグラシやアブラゼミの幼虫にも寄生していることから、本菌は寄生宿主選択的ではないといえます。矢萩氏は、採取西表島で採取したイリオモテハナセミタケ(Isaria spp. D. Shimmizu)の子実体はツクツクホウシタケのそれとほぼ同じであるとのべており、イリオモテハナセミタケもツクツクホウシタケも別種ではなく同種のものと考えられます。今後、このような命名による混乱を避ける意味においても遺伝子による種の同定を行うべきであると思われます。
 さて、ツクツクホウシタケの培養代謝産物であるmyriocin(ISP-1)を基本として合成された2-Amino-2-[2-(4-octylphenyl)ethyl]propane-1,3-diol hydrochloride(FTY720)は主要な免疫抑制剤で、移植免疫に関連した学術雑誌にその有用性が多数掲載されています。また、FTY720はある種の癌細胞(前立腺癌)に対してcaspase-3依存型のアポトーシスを誘導したり細胞周期に影響を及ぼしG1 arrestを起こすとされます(Permpongkosol S., et al.,(2002) Anticarcinogenic effect of FTY720 in human prostate carcinoma DU145 cells: modulation of mitogenic signaling, FAK, cell-cycle entry and apoptosis. Int. J. Cancer 98:167-172)。 虫草菌はこのように、医薬品開発には欠かせない研究対象なのです。

(文責:高野文英)