本園は、故竹本常松教授(初代学部長、薬用植物園長)が唱えた「全山の草木は、ことごとく薬草薬木」という理念に基づいて、狭義の薬用植物だけにとどまらず、あらゆる植物の収集に努めています。青葉山は市街地に近いにもかかわらず自然がよく保存され、動植物の生態系が多様なことで知られる地域であることから、本園はまさに自然の景観を生かした“自然薬用植物園”といえます。
この青葉山のすばらしい生物相を保存しながら、それを薬用植物園として活用するために、園内は標本栽培区、資料保存区、自然植生観察区に分けられている。そこには数本の観察路が設けられ、数々の植物が観察できます。
本園は大学の薬用植物園としては全国一の広さを誇り、温室で栽培している熱帯・亜熱帯産薬用植物を含めると約1200種類の植物を観察することができます。
園内には「草木碑」が建立されています。草木碑は、昭和48年、草木の恩恵に感謝し、草木の育成を愛護する心を表すために竹本教授によって建立されました。米国のイエーロー・ストーン公園は、自然保護を謳った世界で最初の国立公園といわれています。竹本教授は、本園に草木碑を据えるに当たって、自然保護の精神を活かすことを考えたといわれます。自然保護の声が澎湃として渦巻いているものの、未だ的確な方途がなされないまま貴重な自然が失われていく我が国の現状をみるにつけ、竹本教授が草木碑によって教えられようとしていた意味は誠に深いものといえます。
園内には実験動物慰霊碑が建てられています。この碑は、昭和56年に建立されたもので、我が国の薬学系大学で初めて安置されました。碑の台石には、米国ミネソタ州立大学の分析科学者コルトフの言葉「倫理は導き実験は決する」が記されています。碑の後ろには「種々諸悪趣 地獄鬼畜生 生老病死苦 以漸悉令滅」という観音経の偈分に由来して聖観音像が置かれています。観音像は富山県高岡市の工匠・大野昇竜氏の作になり、実に柔和な表情をしたものであります。実験動物慰霊碑は、薬学部教授会の発意により建立されましたが、故小澤光教授、薬品作用学教室同門会、社団法人生命科学振興会から寄せられた篤志も特筆されなければなりません。観音像は、建立に際する御法労を記念して「小澤観音」と称されています。