本園では身近にある有毒植物で誤食の虞のあるものや、有毒であっても薬用になる植物についても管理栽培を行いそのその特徴を観察・把握し、それらの知識の啓蒙をも併せて行っています。
右図のトリカブトは猛毒の植物ですが、その根を減毒して製した生薬を天雄、烏頭、あるいは附子と称し、漢方方剤の中では大変重要な生薬なのです。

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アセビ
和名:アセビ
学名:Peris Japonica D. Don
科名:ツツジ科(Ericaceae)
使用部位:全草
生薬名:馬酔木
成分:Grayanotoxinやacebotoxinなど
用途:庭木としての観賞用
注意追記:同科の植物「ハナヒリノキ」や「レンゲツツジ」などもアセビと同じ毒性分含有するので誤食しないように注意を要する。一方、毒性分のグラヤノトキシンは、骨格筋あるいは血管平滑筋のNa+ channelを研究する上で重要なtoolである。
獣医学領域からの論文で、神経学的異常、消化器失調、不整脈などの所見が認められる患畜は、ツツジ科植物による中毒の疑いがあるという(Puschner B., et al., J Am. Vet. Med. Assoc. 2001, 218: 573-575)。

スズラン
和名:スズラン
学名:Convallaria keiskei Miq.
科名:ユリ科(Liliaceae)
使用部位:根・根茎
生薬名:鈴蘭根
用途・注意:鈴蘭根には強心利尿の効果はあるが、本生薬を民間あるいは漢方方剤の何れにも用いるべきでない。
ドイツスズランやスズランは観葉植物として親しまれであるが、まれに飼い犬などがこれを誤食して死亡する例がある(Moxley RA, et al., J. Am. Vet. Med. Assoc. 195: 485-487 ,1989)。
補記:スズランの毒成分(convallatoxin)はジギタリスやストロファンツスに含まれる強心配糖体(digitoxinやstrophanthin)と類似した構造をもち、中毒量では心血管系で不整脈や房室ブロックを誘発、胃腸系では激しい嘔吐、中枢神経系では幻覚や眩暈、精神錯乱などを発症する。死亡の原因は心不全。

ヒガンバナ(彼岸花),マンジュシャゲ(曼珠沙華)
和名:ヒガンバナ(彼岸花),マンジュシャゲ(曼珠沙華)
学名:Lycoris radiata Herb.
科名:ヒガンバナ科(Amaryllidaceae)
使用部位:鱗茎
生薬名:石蒜(セキサン)
成分:lycorineやlycorenineをはじめとするアルカロイド化合物
用途:催吐、催乳、消炎、去痰、駆水を目的に民間あるいは処方剤の配合生薬として利用(催吐以外は外用として使用)されたが、現在では用いない。
補記:○ヒガンバナアルカロイドのlycorenineの血圧降下作用について調べた1980年の研究論文があるが(Miyasaka K, Hiramatsu Y. Jpn. J. Pharmacol. 1980, 30: 655-664)、それ以降。研究の対象には殆どなっていないようである。
○ヒガンバナの仲間で,ヒガンバナ科のスイセン(Narcissus tazetta L.)、アマリリス(Hippeastrum hybridum Hort.)、キツネノカミソリ(L. sanguinema Maxim.)、ナツズイセン(L. squamigera Maxim.)などの植物は有毒なので、口に入れたり煎じるなどして用いるべきでない。

ベラドンナ
和名:-
学名:Atropa belladonna L
科名:ナス科(Solanaceae)
使用部位:根
生薬名:(局)ベラドンナコン(ベラドンナ根)(劇)(指)
用途:ベラドンナエキス(局)(劇)(指):鎮痙鎮痛薬アトロピン製剤原料
中毒:中枢と末梢神経系に作用して発現する。
トロパン系アルカロイド化合物として:体温上昇・腹部膨満・運動失調・精神錯乱・記憶喪失・失神・循環不全。重症では呼吸麻痺で死亡。
※ベラドンナエキスから得られるアトロピンは、医療の現場において、欠くことのできない重要医薬品の一つである。
最近の論文から:トロパン系アルカロイドを含む点眼液で薬物アレルギー(発疹や浮腫:いわゆるアトロピン発疹)を誘発した臨床報告によると、外科手術などトロパン系アルカロイドを長時間作用させなければならない状況にあったものが、術後に本アレルギーを発症しやすくなるとされる。
本副作用の発症時にはステロイド軟膏が著効する。アレルギー応答回避のためにもパッチテストが必要(Decraene T, Goossens A. Contact Dermatitis 45:309-310, 2001)。
注意:ベラドンナアルカロイド類を含む製剤:乳幼児で感受性が高く、本アルカロイド類を含む点眼薬が鼻粘膜や嚥下によって吸収され中毒を起こす場合があるので注意
類似・鑑別:○(局)ハシリドコロ(Scopolia japonica)(劇)(指)
○ヒヨス類(Hyoscyamus nigre とH. nigre var. chinensis)(有毒)
○チョウセンアサガオ類(Datura alba Neesなど)(有毒)