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Nanyang Technological University 南洋理工大学

2017年1月6日-3月29日  DC1 袴田 容章

この度、シンガポール西部にある国立の工科系大学 Nanyang Technological University (南洋理工大学、通称NTU)の、S.Chiba教授が主宰する研究室に約3ヶ月間滞在し、海外研究留学の機会をいただきました。NTUは1991年に創立され、その浅い歴史にもかかわらず、毎年世界大学ランキングで上位に位置する国立大学です。(2015年では世界ランク13位、創立50年以内の大学では1位)。200ヘクタールほどの広大な敷地を有するキャンパス内には、マンション、スーパーマーケット、スポーツ施設等が点在するため、大学内のみで日常生活を送ることができ、学生にとって申し分ない生活環境が備わっています。今回私が滞在したChiba研究室では、有機合成化学を基盤とする研究に従事しており、特に多くの医薬品の部分構造である含窒素複素環化合物の新規合成法の開発を精力的に行っています。今回の報告書では、私が留学を志した経緯や、実際にシンガポールで過ごした日々を紹介します。

• 渡航前
留学に行きたいと思った主な理由は2つありました。1つめは、海外での研究に対する取り組み方、考え方を学びたかったからです。日本にはない研究のアプローチの仕方や発想を身につけ、留学後の研究生活に活かそうと考えました。2つめは新たな環境下で自分の実力を試したかったからです。Ph.D studentとして、短期間で研究成果を出せるか、外国人と英語でコミュニケーションが取れるか、などと目標を決め努力することで、自身が成長できると考えました。また金銭的なサポートを得るために、宮城県の研究者に対し海外援助を行っている東北開発記念財団へ申請をし、採択されたため、今回の留学が実現しました。

• 現地での1日の流れ
平日は朝9時過ぎから23時、土曜は20時まで実験しており、日本にいた時とあまり変わらない生活パターンで過ごしました。多くの外国人が在籍する研究室であったため、国籍によって帰宅時間が異なっていたことも興味深く、国民性の違いを実感しました。多くの学生は21時までには帰ってしまい、私を含めた日本人は最後まで研究室に残って実験をする、という日々が少なくありませんでした(決してダラダラ過ごしていたわけではありません)。日本人は働きすぎだ、とよく外国人のコメントを耳にしますが、小さな社会である研究室の中で、身をもって体験することができました。

• 研究の進め方
学生1人に対し1つの研究テーマが与えられる徳山研究室とは異なり、Chiba研では複数の人数で1つのテーマを担当するスタイルでした。個人の研究能力が必要であるのに加え、役割や方向性を確認するために研究チーム内でのコミュニケーションが最も重要でした。またメンバー同士でお互いの実験を担当し、しばしば有機化学で問題となる''実験の再現性''を確認できたのは、チーム制の利点の一つだと感じました。私の研究チームは、何と全て日本人で構成され、お互い普段の会話は日本語でした。もちろん、他のメンバーと話すときは英語なので、相手によって日本語と英語を使い分けなければならず、四苦八苦しました。身近な存在である共同研究者が日本人ということで、語学の練習として英語を用いる機会がそれほど多くなく、少し物足りないと感じることがありましたが、円滑なコミュニケーションのおかげで、短期間でプロジェクトがスムーズに進みました。また、同研究室内の日本人以外で構成されている他チームに比べて、我々''Team Japan''では、何も言わずにお互いの実験をサポートし合えたことが多々ありました(率先して用いる試薬の準備やデータの解析を行うなど)。このような「空気を読む」感覚は、世界に誇れる日本人の国民性であり、チーム制でプロジェクトを円滑に進めるための重要な要素だと感じました。まさに''大和魂''です。


• 研究室の構成メンバー
地元のシンガポール人よりも各国からの外国人の数が多く、国際色豊かな研究室でした。シンガポール近隣のインドネシア、ベトナムといった東南アジア諸国を筆頭に、日本、中国、フランスなどの外国人が在籍していました。様々な宗教や習慣を持った人々が集まる環境下では、日本では当たり前とされる常識や概念が通用せず、驚くことも多々ありました。例えば、国籍が多様化するとしっかりとした統率が取れないため、研究室単位での飲み会やイベントを開催するのは困難でした。私が主催した飲み会の際中で、研究室メンバーに「普段みんなで飲み会はするの?」と何気なく質問したら「This is the first time!」と意気揚々とメンバーが答えたことを今でも鮮明に覚えており、カルチャーショックの一つでした(徳山研メンバー同士では飲み会がしばしば行われるため)。また、NTUでは1研究室に教員が1人のみだったため、Chiba先生と直接ディスカッションさせていただく機会が数多くありました。日本人として海外の大学で研究室を運営していく難しさや楽しさのみならず、先生の色々な意見や考えを拝聴することができ、感銘を受けました。(ポケモンGOの話には全くついていけませんでしたが。。)

• コミュニケーション
研究室内では多数の外国人が在籍するため、英語を共通言語として日常会話や研究テーマのディスカッションが繰り広げられました。メンバーのほとんどは、私よりも遥かに英語を使い慣れており、留学当初は全く会話についていけませんでした。会話を聞き取れたとしても、自分の言いたいことを英語で伝えられず、悔しい思いもしました。英語力があればもっと留学が楽しいものになったと思います。また、最も驚いたのが、シンガポールの街中に出かけると多くの人々が2種類以上の言語を使い分けていたことです。これは高学歴の人に限ったことではなく、中学生や年配の人でも、ビジネスシーンでは英語、自宅では母国語(中国語、マレー語、タミル語等)と、話す相手や場面よって、異なる言語を用いていました。中華系、マレー系、インド系等の民族が存在する多国籍国家特有の文化を肌で感じたと同時に、英語が話せることは決して特別なことではなく、身につけるべき最低限のコミュニケーションツールであることを痛感しました。

• Group meetingでの研究発表
Chiba研のセミナー内で、日本での研究テーマについて英語でプレゼンテーションを行う機会をいただきました。教授や現地の学生たちと英語を通じた質疑応答の時間では、専門とする研究背景の違いのためか、私が今まで考えていなかった観点からの質問が多く、時折困惑しました。しかし、異なる研究内容に携わる研究者からのフィードバックは、自分の研究テーマについて違う角度から見直すきっかけとなり、更に理解を深めることができました。また卒業試験や学会の場でも経験がない計40分間の発表•質疑応答を、英語で行うことができたのは、貴重な体験でした。終了後には「Nice work!」と言ってくれた学生もいました。国籍が違う外国人からの評価を受けて、これまでにない達成感を味わうことができ、感無量でした。

•観光
シンガポールに滞在中、少ない余暇を利用して、幾つか観光地を訪れました(研究室の休みが日曜のみで、国の祝日は日本より圧倒的に少ないです泣)。マーライオンパークやセントーサ島などの有名なスポットでは、各国からの観光客で溢れていました。日本人観光客も多く、歩いていると日本語が聞こえて来ることが多々ありました。都市リトルインディア、チャイナタウンにはそれぞれ多くのインド系、中華系民族が住んでいるため、まるでインドや中国に旅行しているかのようでした。東京23区ほどの面積に、アジア各地の文化が入り乱れるシンガポールならではの楽しみ方だと思います。ところで帰国後、研究室のメンバーに、「全然日に焼けてない」と指摘されました。これはつまり、肌の色からも留学中の大半を、私が外で遊び呆けていたわけではない、ということですので、悪しからず。

上記のことに加えて、シンガポールでの研究留学を通じて良かったことは2つあります。1つめは、海外の研究環境に触れたことです。同じ研究室に長く所属していると、一貫した研究テーマに従事するためか、偏った価値観で他分野の研究を捉えがちです。しかし、異なる研究テーマを持つ研究者との交流を通じて、自分との「目の付け所」の違いを認識することができ、視野が広がりました。また学力や実験レベルに関しては、徳山研究室の教員や先輩からの(とても厳しい)指導のおかげもあり、困ることがありませんでした。同時に、日本で培った力は間違っていなかった、と日本の教育制度の素晴らしさを肌で感じました(お世話になっている先生方の顔が頭に浮かびます)。2つめは様々な人とのつながりです。チーム制での研究の中で、共同研究者と昼夜問わず研究に励み成果を出す喜びは、何物にも代え難いものでした。日本では自らのテーマの実験を自分のみで担当してきた私にとって、メンバーと共に研究を作り上げていくプロセスは、とても刺激的な経験でした。また、海外で活躍する日本人や外国人の方とつながりは、かけがえのない存在です。彼らは良き友人であると同時に、互いに高め合う良きライバルであるため、彼らに負けていられないという思いで、帰国後は一層研究に励むことができています。

シンガポールで過ごしたこの3ヶ月間は、日本で過ごしてきた私にとって生涯忘れられない日々でした。この経験を活かし、残りの大学院生活を楽しむ予定です。最後になりますが、今回の貴重な留学の機会を与えてくださった徳山教授、Chiba教授、東北開発記念財団に厚く御礼申し上げます。

►実験室
日本の実験室とほとんど変わりません。ただ椅子が異常に高いです。

►Meeting Room
冷水機完備のセミナー室です。Chiba研のゼミはここで行われました。

►英語での研究発表
日本での研究内容を発表している様子。皆さん熱心に聞いてくれました。

►共同研究者の方
まさかの全員日本人でした。留学中、全面的にサポートしていただきました。

►Prof. S. Chiba and Prof. T. Hayashi
お世話になったChiba先生とHayashi先生との3ショット。

►Chiba研のメンバー
国際色豊かなメンバー構成です。

►Merlion Park
マーライオンとの写真。水しぶきが強く、近づくと濡れます。実際濡れました。

►Marina Area
夜には鮮やかなイルミネーションで彩られます。

►チリクラブ
甘辛ソースで煮込んだカニです。素手で殻を割って食べます。私は好きです。

►ドリアン
味やにおいにクセがあり、好き嫌いが分かれるフルーツです。私は好きです。

►Clarke Quay
有名な水辺の飲み屋街。時間によってライトの色が変わり、景色も楽しめます。

►POKEMONのイベント
研究室メンバーと参加しました。シンガポールにも日本の文化が根付いています。

      

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Last Updated July 24, 2014