Research

Research overview

私たちの研究室では、生物の巧みな物質生産システムを利用した「ものづくり」「ものとり」を実践しています。現在は、糸状菌 (カビ) のゲノム上にコードされる未知化合物の生合成遺伝子を活用することで、様々な研究分野にインスピレーションを与えるような魅力的な天然物や擬天然物を創生し目指して日々研究に取り組んでいます。糸状菌の作り出す多様な二次代謝物 (天然有機化合物) は、ペニシリンやロバスタチンに代表されるような有用薬理活性物質が多いことから、医薬品開発の重要な探索資源として認識されています。次世代シーケンサーによる糸状菌ゲノム解析が進むにつれ、未知なる二次代謝物の設計図 (生合成遺伝子クラスター) が数多く存在することが明らかになりました。そこにはいったいどのような二次代謝物の構造が描かれているのでしょうか。私たちは、糸状菌のゲノム上に存在するユニークな設計図を探索し (ゲノムマイニング)、その情報に基づき、有機化学、遺伝子工学、合成生物学などの幅広い領域の知識や手法を駆使して新規性の高い二次代謝物の獲得する「ポストゲノム型天然物探索」を展開しています。新しい天然物を発見するだけでなく、新しい化学反応、酵素反応や生合成マシナリーの開拓や二次代謝制御システムの解明にも興味を持って取り組んでいます。研究してで創出した天然物は、共同研究を通じて様々な薬理活性を評価し、医薬シーズ探索への応用を目指します。天然物は感染症治療薬やがん治療の分野で強みを発揮してきた歴史を踏まえて、抗菌 (薬剤耐性菌)、抗真菌、抗ウイルス、抗がん活性の評価を軸とします。ポストゲノム時代にあってこそなし得る天然物探索「ものとり」を展開し、天然物創薬の発展に貢献します。

キーワード:天然物化学、生合成、ゲノムマイニング 、合成生物学、ポストゲノム型天然物探索、有機化学、化学ー酵素ハイブリッド合成、創薬研究

研究1 :ゲノムマイニング

麹菌異種発現システムを用いるポストゲノム型天然物探索

糸状菌ゲノム上には、多種多様な未開拓の二次代謝物生合成遺伝子が眠っています。次世代シーケンサー登場や糸状菌分子生物学の発展により、これら膨大な遺伝子資源を利用する天然物探索が可能となりました。私たちは、独自に分離した、植物や昆虫の内生糸状菌のゲノム情報を探索資源とし、麹菌異種発現系を利用するポストゲノム型天然物探索により、ユニークで独創的な天然物や有用な薬理活性天然物の獲得を目指しています。ゲノムマイニングでは、AIを利用したプログラムを作成し、新規性の高いクラスターの探索や未知生合成遺伝子クラスターにコードされる生合成産物の構造予測なども行なっています。遺伝子導入では、CRISPR-Cas9システムなどの分子生物学のツールを使用することで効率よく進めています。分子創製では、人工生生合成経路を設計し、自然界にはプログラムされていない非天然型の天然物の創製にもトライしています。研究は以下の4ステップで進めています。

1. 内生糸状菌の探索とドラフトゲノム解析
2. ゲノムマイニングによる標的生合成遺伝子クラスターの探索や構造予測
3. 過剰発現ベクターの作製と麹菌への遺伝子導入
4. 導入遺伝子に由来する二次代謝物の単離と構造決定

研究2 :

天然物の生合成研究

天然物は、生体内で、多段階の酵素反応により生合成されます。つまり、一つ一つの天然物にはそれぞれの生合成システムが存在します。そこには、酵素によるアミノ酸や金属を利用した触媒反応によるエレガントな有機化学反応が行われており、

研究3 :

休眠遺伝子の覚醒法の開発と天然物探索

微生物のゲノム上には、膨大な数の天然物生合成遺伝子クラスターが存在し、また、その大半は実験室培養条件下では休眠していることが知られている。それらの中には、これまでにはないような新しい天然物も眠っている。研究1のゲノムマイニングでは、生合成の知見に基づく合理的な探索かつ供給が可能であるが、全く未知の生合成システムや複数のクラスターが働くことで生合成される天然物を獲得することは難しいです。研究3は、ランダムかつ、セレンディピティーに頼らざるを得ず、効率的とはいかないものの、研究1を補完するものであり、未踏の天然物や生合成システムの発見には必要不可欠な重要な研究です。私たちはこれまでに、エピジェネティクス酵素阻害剤や植物ホルモンを用いた休眠遺伝子活性化法を確立し、多様な新規天然物を取得してきました。最近は、大規模ゲノム再編成技術を利用した、画期的な休眠遺伝子覚醒法の開発をおこなっています。ユニークな新規天然物を発見した場合は、化学構造情報をもとにゲノムマイニングを行い、研究1や2へフィードバックし、新しい研究テーマへと繋がっていきます。

研究4 : 天然物を活用する創薬シーズ開発

私たちの研究室では、市販されていない様々な天然物を合成生物学を利用して手に入れることができます。合成生物学により供給した独自の天然物を、有機化学の力を使って大規模なライブラリーへと変換し、創薬シーズ探索のためのライブラリーの構築をおこなっています。DNAコード化ライブラリー (DEL) の技術や、ワンポット連結反応など、天然物から効率良く大規模ライブラリーが構築でき、かつ、再合成も容易で、創薬研究に実用的な方法の開発を目指した研究をおこなっています。また、私たちの研究室では、様々な酵素を発現精製し、in vitroでの反応系を構築することができます。様々な仕掛けを施した人工基質を合成し、多様な酵素による変換を利用する、化学ー酵素ハイブリッド合成を利用した多様な擬天然物の創製研究もおこなっています。