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オサムシタケ

学名Tilachlidiopsis nigra Yakushiji et Kumazawa
中葯分類
採取矢萩信夫
特徴・解説
 鞘翅目(Coleoptera)のオサムシ科(Carabidae)の幼虫または成虫に寄生する冬虫夏草属菌類であり、虫体の胸部、口吻部、腹部、尾部の随所から1~15本の黒色で蔓状の不完全型子実体(Isaria型)が不規則に発生する。
 鞘翅目の甲虫類のなかでもオサムシは肉食性であり、その食性の特殊性から生息域の地域局在化がおこり、遺伝的多形を研究する上で貴重な昆虫であるとされる。本菌は1980年、山形県最上郡釜淵の森林地帯で発見したものである。
 本菌発生地の植物相として、ブナ、ホウノキ、トチノキ、ミズナラ、タニウツギ、ガマズミ、ノリウツギ、アオキの繁茂が認められる。このように虫草類の発生には、人の手が及んでいない広葉樹林帯の存在が不可欠な条件である。目下、原生林は年を追う毎にそのエリアを狭め、冬虫夏草属菌類の発見もこれに呼応して減少している。なお、皮肉なことに、人工的に植林した山などには冬虫夏草属菌は殆んど発生しない。
 さて、本菌は不完全型の子実体を形成する冬虫夏草属菌であるが、完全型の子実体(Cordyceps型)を形成するオサムシタンポタケ(Cordyceps entomorrhiza Link.)があることが知られており、子実体にはタンポ状の結実部を作る。なお、珍しいケースとして、子実体の柄の中間点に虫ピン様の不完全子実体類似部を形成する場合があり、この部分では分生胞子が存在するのが確認できる。本種の子実体は黒色で針金状であり、不規則な螺旋を描いて伸長し、地上部へとつながる。地上部分には白色の結実部を作り。分生胞子の大きさは 10~12 x 1.7~2 μmである。なお、本菌は日本固有種であり、当研究室の矢萩によって株化され、継代培養されている(標本番号:CY21)。