薬物代謝酵素は大きく2つのグループ(相)に分類されます。第一相に分類される代表的な酵素
にチトクロームP450があり、薬の酸化、還元反応を担っています。また、第二相に含まれる代表
的な酵素として硫酸抱合酵素やグルクロン酸抱合酵素があり、これらは薬の抱合反応を担っていま
す。いずれの酵素による反応も薬をより水に溶け易い形に変え、体外に排出しやすくします。薬物
代謝酵素は、薬の代謝のみならず食物として摂取した物質を代謝し、体外に排出されやすい形に変
換したり、あるいは生物が生きていくのに必須なホルモンなどの生理活性物質を代謝し、その量を
調節しているものもあります。
 これまでの薬物代謝研究は、機能からそれを担う酵素を精製、同定するという流れが一般的でし
たが、現在は遺伝子レベルの解析技術が進歩し、遺伝子から薬物代謝酵素の本来の機能の解明が行
われています。我々は、メッセンジャーRNAからタンパクを合成し薬物代謝活性のみならず、どの
ような生理活性物質を代謝するかを調べています。また、このタンパクをもとに抗体をつくりどの
ような組織や細胞に発現しているかを調べ、さらにこれらの結果から酵素の機能を推定し、最終的に
は実験動物の同一酵素を取り除く(ノックアウト)ことにより生じた生体の変化から機能を同定する
ことを考えています。最近の当分野の研究成果から、硫酸転移酵素の一分子種は脳の記憶や抗不安作
用に関わること、またある分子種は神経伝達物質を代謝し、これらの量を調節し血圧の調節にかかわ
っていることが推定されています。
 今後これらの酵素が生体の維持だけではなく、病態とどのように関連しているかも合わせて研究し
ていく予定です。