我々、人間には様々な形の顔があるように、薬の効果も良く効く人、あまり効かない人または副
作用の発現しやすい人など個人間で異なっています。この薬の効果の個人差には、薬物代謝酵素活
性の個人変動が大きく関わっています。即ち薬の代謝の早い人は薬が体内より排泄され易いために
効きにくく、逆に遅い人は薬が長く体内にとどまって良く効くか、あるいは副作用を発現すること
があります。
 ところでお酒に上古の人と下戸の人がいることは良く知られています。即ちお酒に強い人はアル
コールが早く体内からなくなるために酔いにくく、お酒に弱い人はお酒が体から出ていかないため
にすぐに酔いやすく、特に全く飲めない人が無理をして飲むと、むしろ毒性が出て気分が悪くなり
ます。この体質は、両親から受け継いだ遺伝的なもに原因があることは良く知られています。
 これと同じようなことが薬物代謝酵素にも当てはまります。即ち肝臓における薬の変換効率の個
人差は、その薬物代謝酵素の両親から受け継いだ遺伝的な違いによって引き起こされています。薬
物代謝酵素の遺伝的多型の研究は、個人間の代謝活性の違いの原因を遺伝子レベルで明らかにし、
薬を人に投与する際に遺伝子の異常の有無を事前に調べ、副作用や毒性発現のない安全な薬の開発
や使用のために行っています。
  薬物動態学分野では、ヒトの薬物代謝酵素の遺伝子多型を明らかにすると共に、その遺伝子多型
と薬の服用時における薬の体内動態の関係や、遺伝子多型と癌等の病気との相関について研究して
います。