タバコの葉につく虫の中には、葉を食べると葉の中に含まれるニコチンの毒性のために、し
ばらくの間、葉を食べないようになるものがいます。しかし、しばらくすると今度は以前に増
して、葉を食べれるようになるといわれています。これは虫の体の中に入ったニコチンが、ニ
コチンを解毒する酵素の量を増やし、ニコチンが体の中に蓄積されず、その毒性が現れにくく
なるためであると報告されています。身近なこととしてお酒にも同様なことが見られます。お
酒を毎日飲んでいる人はお酒に強くなります。即ち、手が上がるとよく言われますがこれもお
酒を毎日飲むと、アルコールがこれを変換、解毒する酵素の量を増やすためであると考えられ
ています。
 薬物代謝酵素誘導とは薬や食物と一緒に体の中に入ってくる異物によって、異物を変換する
酵素(薬物代謝酵素)の発現量を増加することを指し、上で述べたタバコの葉を食べる虫の場
合やお酒に強くなることは、薬物代謝酵素誘導で説明されます。
 薬物動態学分野ではヒトでの薬の代謝に重要な役割を果たしている代表的な薬物代謝酵素で
ある、チトクロームP450(CYP3A4)及びトランスポーター(組織中に薬を取り入れたり排出
する輸送体)の誘導機構の解明を中心に研究しています。近年これらの誘導分子機構として、
核内に存在する受容体を介して引き起こされていることが明らかとなってきました。我々は、
人での機構を解明するためヒトの薬物代謝酵素遺伝子、ヒトの酵素誘導に関与する遺伝子を単
離し、それらの遺伝子を実験動物に遺伝子工学的手法(アデノウイルス)を用いて発現させ解
析しています。さらに実験動物を用いてヒトの薬物代謝酵素の誘導を予測する系の樹立に成功
しています。