What's new
-
共著で執筆したReview"Mono-Carbonyl Curcumin Analogs for Cancer Therapy"がBiol. Pharm. Bull誌に掲載されました。
-
当研究室の論文"Asymmetric Total Synthesis of Cytotrienin A: Late-stage Installation of C11 Side Chain onto the Macrolactam Scaffold"がAngew. Chem. Int. Ed.誌に掲載されました。
-
当研究室の論文"4-Chloro-2-azaadamantane N-Oxyl (4-Cl-AZADO): A Readily Preparable Organocatalyst for NOx Co-catalyzed Aerobic Alcohol Oxidation"がAsian J. Org. Chem.誌に掲載されました。
-
当研究室の論文"Sequential click modification of a lithium-ion endohedral fullerene connecting small molecules through a dieneazide linker"がJ.Org.Chem.誌に掲載されました。
Movie
研究内容

薬学の発展を先導する精密有機合成化学
岩渕研究室では、好奇心を大事に(Curiosity First)しながら、「薬学の発展を先導する精密有機合成化学」の研究に取り組んでいます。
薬学における重要な分子の機能は生物活性です。そこで、岩渕研究室では生物活性化合物(主には天然物)の合成を中心的課題に設定しています。また、生物活性化合物や医薬品の効率的合成を可能にする触媒反応開発、生物活性化合物や医薬品の活性発現メカニズムの解明に迫る分子ツールの創出を介したケミカルバイオロジー研究を展開しています。
触媒反応開発では、反応の選択性制御、特に空間を制御した不斉触媒の開発を目指しています。また、分子ツールの開発では化合物がどこにどのように作用するのか、だけでなく、その経時変化(時間制御)の解明を目指します。これらの高難度空間制御、時間制御を実現するために、私たちは実験化学のみならず、コンピュータを用いた計算化学も活用して、効率的に研究を進めています。

東北大学大学院薬学研究科
分子制御化学講座 合成制御化学分野
高選択的有機合成手法の開発
医薬としての機能を備えた有機分子は複雑な構造を有するものが多く、その合成には多段階にわたる化学反応の合理的な連結が必要とされます。これまで先人によって開発された幾多の合成方法論、反応剤に力を得て、有機合成化学は前世紀後半から急速な発展を遂げ、その結果として優れた医薬品が世に送り出され、多くの命が救われてきました。
その時代の有機合成化学の力量を映し出すかのように、医薬分子の構造は時代とともに複雑化し、医薬としての効能も著しく向上してきました。しかしながら、人類には今なお、有効な薬物療法の開発が切望される疾病が残されています。必要とされる有機分子を如何に的確に、迅速に、そしてエレガントに合成するか。有機合成化学には、さらなる力量の向上が望まれています。
私達の研究室では、「分子触媒」「レドックス制御」「不斉合成」をキーワードとして、複雑化する医薬合成研究を支援する有機合成手法の開発研究を行っています。
- ・有機分子触媒を用いる酸化反応
- ・有機分子-金属ハイブリッド触媒を用いる酸化的分子変換法
→ニトロキシルラジカル/銅触媒を用いる化学選択的アルコール空気酸化反応
→ニトロキシルラジカル/クロム触媒を用いる酸化的フェノールカップリング - ・キラルRh(Ⅱ)触媒を用いる含窒素不斉四置換炭素構築法
東北大学大学院薬学研究科
分子制御化学講座 合成制御化学分野
AZADO酸化
- ・クロム酸酸化(Jones酸化、PCC、PDF酸化等)…毒性廃棄物
- ・Swern酸化…極低温、悪臭
- ・Dess-Martin、IBX酸化…大量の廃棄物、爆発性
- 1.立体的に混み合っている2級アルコールには適用できない。
- 2.オレフィンを有する基質の酸化の場合、次亜塩素酸ナトリウムは用いることができず、PhI(OAc)2等を共酸化剤として用いる必要がある。
- 3.第1級アルコールからカルボン酸へのワンポット酸化反応の基質適用性が乏しい。

私達の研究室では、新しい触媒や反応系のデザインによって、これらのTEMPO酸化の問題点の解決に取り組んできました。2-azaadamantane N-oxyl (AZADO)は、アダマンタン骨格の特性を利用してニトロキシルラジカルα位に水素原子を安定に配置させ、触媒活性部周辺の嵩高さを軽減することで、嵩高いアルコールも接近できるように設計した触媒です。AZADOは、第1級アルコールの酸化では、TEMPOの約20倍の触媒回転数を示しかつ、TEMPO酸化で適用できない嵩高い第2級アルコールにおいても速やかに酸化が進行します。

開発した酸化反応






AZADO、1-Me-AZADOの入手法と合成法
AZADOと1-Me-AZADOは、和光純薬とSIGMA-ALDRICH社より販売されています。
Wako Organic Square No.29 1
http://www.wako-chem.co.jp/siyaku/journal/org/pdf/org29.pdf
和光純薬時報 January 2007, vol 75, No. 1
http://www.wako-chem.co.jp/siyaku/journal/jiho/pdf/jiho751.pdf
AZADOの企業化に向けた研究は、科学技術振興機構JSTの「平成19年度 産学共同シーズイノベーション化事業 顕在化ステージ」に採択され、日産化学工業との共同研究によってわずか4工程の短工程合成法が開発されました。この方法によって、安価で大量入手可能な2-アダマンタノンよりAZADOをキログラムスケールで合成ができるようになりました。


AZADO
Nissan/Tohoku route
1-Me-AZADOは、1,3-アダマンタンジオールから6工程で合成できます。当研究室では、配属された学部3年生の練習プログラムとして毎年1人5gを作っています。


1-Me-AZADO
AZADO酸化の豆知識
共酸化剤の特徴と選び方
次亜塩素酸ナトリウム
…大量反応には最適
(安価で試薬由来の副生成物が少ない。反応速度も速い。)
ただし、二重結合を持つ基質は避けたほうがよい。
極性の高い第1級アルコールは、カルボン酸を生成しやすい。
Anelli's 条件 (AZADO or 1-Me-AZADO, NaOCl, KBr, Bu4NBr)
KBrやBu4NBrは、必須ではないが添加したほうが触媒効率が上がる。
臭化物イオンから、次亜臭素酸イオンが発生すると言われている。
二層系であるため、撹拌効率が重要。
次亜塩素酸ナトリウムは、活性が変わりやすいので、試薬びんを開封後長期間たったものは避けたほうがよい。
次亜塩素酸ナトリウムの活性は、ヨウ素でんぷん反応で滴定できる。
PhI(OAc)2(BAIB)
…高価だが、2重結合をもつ基質も適用可能。濃度依存的に反応速度が加速するので、できるかぎり高濃度にするとよい。(ただし、1mol/L以上は避けたほうがよい。)
次亜塩素酸ナトリウム等に比べ、反応時間が長い。
酢酸中での再結晶、水の添加が再現性を上げる場合がある。
空気酸化
…1置環、2置換オレフィンを持つアルコール基質は適用できる。酢酸が必須。ただし、溶媒量ではなくてもよい(MeCN溶媒と酢酸3-10等量でも可)。
第1級アルコールからカルボン酸へのワンポット酸化反応
AZADO+X-/NaClO2条件が簡単で最も基質適用性が広いのでお勧め。TEMPOを用いたZhaoらの条件にAZADOを適用したAZADO/NaOCl(cat)/NaClO2も、TEMPOを用いた場合に比べ基質適用性は広い。
反応開始時と終了時に反応液が赤くなる場合が多い。
α-アミノアルコールも、ラセミ化しない。
AZADO酸化の応用例
2021
158

157

156

2020
155

154

153

152

151

150

149

148

147

146

145

2019
144

143

142

141

140

139

138

137

136

135

134

133

132

131

130

129

128

127

2018
126

125

124

123

122

121

120

119

118

117

116

115

114

113

112

111

2017
110

109

108

107

106

105

104

103

102

101

100

099

098

097

096

095

094

2016
093

092

091

090

089

088

087

086

085

084

083

082

081

080

079

078

077

076

075

074

073

072

071

2015
070

069

068

067

066

065

064

063

062

061

060

059

058

057

2014
056

055

054

053

052

051

050

049

048

047

046

045

044

043

042

041

040

2013
039

038

037

036

035

034

033

2012
032

031

030

029

028

027

2011
026

025

024

2010
023

022

021

020

019

018

017

016

015

014

013

2009
012

011

010

009

008

007

006

005

004

003

2008
002

2007
001


東北大学大学院薬学研究科
分子制御化学講座 合成制御化学分野
生物活性天然物の立体制御合成
自然界には今なお、人智の及ばない複雑な構造を有し、特異な生物活性を発現する有機化合物が多数存在しています。これらの殆どは我々とは直接関わりのない世界に生きる生物が作り出しているものですが、歴史が示すとおり、これら天然物(天然有機化合物)は生命現象の不思議を解き明かし、創薬研究に深い示唆を与えるかけがえのない資源としての地位を占めています。
当分野では、自然界からは僅かしか得られない複雑な構造を有する新規生物活性天然物の効率的合成法を開発し、詳細な薬理学的研究を可能とする試料の提供を通じて創薬に貢献する基礎研究を行っています。
- 合成した天然物・医薬品 (2010年以降)
- ・Prifinium bromide (Chem. Eur. J. 2021, 27, 1961-1965)
- ・Englerin A (Org. Lett. 2017, 19, 5142-5145)
- ・(+)-Nemonapride (Chem. Pharm. Bull. 2017, 65, 22-24)
- ・Heronamides A-C (Chem. Eur. J. 2016, 22, 8586-8595)
- ・FD-891 (J. Antibiot. 2016, 69, 287-293)
- ・Turkiyenine (Proposed Structure) (Eur. J. Org. Chem. 2016, 270-273)
- ・Irciniastatins A (Psymberin) and B (J. Org. Chem. 2015, 80, 12333-12350)
- ・(+)-Dubiusmine A (Org. Lett. 2013, 15, 1788-1790)
- ・Sundiversifolide (formal synthesis) (Org. Lett. 2011, 13, 3620-3623)
- ・Scabronine G (Org. Lett. 2011, 13, 2864-2867)
- ・Salinosporamise A (Heterocycles 2010, 81, 2239-2245)
- ・Vicenistatin (Synlett 2010, 2589-2592)
- ・(–)-Idesolide (Org. Lett. 2010, 12, 980-983)
- ・過去に合成した天然物
東北大学大学院薬学研究科
分子制御化学講座 合成制御化学分野
過去に合成した天然物
-
(—)-Idesolide
Org. Lett. 2010, 12, 980. -
(—)-Salinosporamide A
Heterocycles 2010, 81, 2010. -
VicenistatineSynlett
Heterocycles2010, 17, 2589. -
(—)-Cylindrocyclophane A
Org. Biomol. Chem. 2009, 7, 3772. -
(+)-Aspidospermidine
Heterocycles 2009, 77, 855. -
(—)-Martinelline and (—)-
Martinellic acid
Chem. Commun. 2007, 504. -
(+)-Juvabione
Chem. Commun. 2007, 1175. -
(—)-Dihydrocorynantheol
Heterocycles 2006, 70, 153 -
(—)-CP55,940
Org. Lett. 2005, 7, 4181.

東北大学大学院薬学研究科
分子制御化学講座 合成制御化学分野
かご型炭化水素の精密修飾に基づく創薬研究
アダマンタンに代表されるかご型の構造を有する炭化水素は、その構造的特徴から数多の化学者の興味を惹きつけており、基礎から応用まで広範な研究が展開されています。これら化合物は一般に剛直な三次元構造を持つことから、官能基化により、置換基の「位置」と「向き」が規定された三次元的な広がりを有する分子を得ることができます。このことは、タンパク質をはじめとする生体分子との適切な相互作用が求められる医薬品の分子設計を行う上で有利に働くと考えられます。
そこで私たちの研究室では、かご型炭化水素を医薬品開発に応用することを志向した有機化学的研究を行っています。具体的には、アダマンタンとキュバンという2つのかご型炭化水素に着目し、それらの自在な官能基化、あるいは誘導化を可能とする合成方法論の開発を通して、三次元的なケミカルスペースを拡充する研究に取り組んでいます。
<アダマンタンと医薬品>
ダイヤモンド(語源:adamas(ギリシャ語))の構造単位と同等の骨格を有することからその名が与えられたアダマンタン (adamantane) は、その高い安定性や特異な構造に着目した材料・ポリマーへの応用などが研究されています。一方、アダマンタン骨格は薬学とも深い関係を持っており、例えばA型インフルエンザ治療薬アマンタジンや、糖尿病治療薬ビルダグリプチンは、その分子構造にアダマンタンを有する医薬品として知られています。
私たちはアダマンタン骨格の有する医薬分子の「原石」としてのポテンシャルを磨き上げるために、様々なアダマンタン誘導体を簡便に得られる合成手法の開発を行っています。例えば、アダマンタンの開環・閉環を駆使する独自の手法を用いて、アダマンタンのキラル修飾を行う手法(Tetrahedron Lett. 2002, 43, 4145.)、ならびに上記の医薬品にも含まれる構造単位である1-アミノアダマンタンを簡便に得る手法(Synthesis 2018, 50, 1820.)を報告しました。これらの基盤技術を用いて得られるアダマンタン誘導体を用いて、本学医薬品開発研究センターとの強力な連携のもと、多角的な創薬研究を展開しています。
<キュバンと医薬品>
キュバン (cubane) は立方体 (cube) 構造を持つ炭化水素であり、1964年にシカゴ大学のEaton教授によって初めて合成された分子です。この合成以来、高度に歪んだ構造が生み出す特異な物理化学的性質や、高エネルギー化合物としての利用が検討されてきており、近年では、Eaton教授の仮説に基づいた「ベンゼン環の生物学的等価体」としての利用も検討されています。しかしそのような研究は、ベンゼン環とは異なり、キュバンを直截的に官能基化することの困難さに起因して、限られた誘導体に対するものに留まっているのが現状です。
私たちはごく最近、キュバンのC–H結合を直截的に官能基化できる新たな手法として遷移金属触媒的なC–Hアセトキシ化反応を開発し、この手法を用いて医薬品に頻出する構造単位への誘導が可能であることを示しました(Org. Lett. 2021, 23, 8717.)。本手法を拡張することで多様なキュバンの誘導化を可能にし、かつ得られた分子の生物学的等価体としての適用可能性を検証していくことで、創薬化学における新たな分子設計指針を提案することを目的に研究を行っています。

東北大学大学院薬学研究科
分子制御化学講座 合成制御化学分野
化学修飾を基盤とする生物活性分子の機能解析
生物活性分子とは、細胞および生体内で何らかの生体分子(群)の機能を阻害あるいは増強することで生物に変化をもたらす分子です。変化が有益であれば、生物活性分子は医薬品となり、有害であれば毒になります。また、生物活性分子が生物に及ぼす変化は、未知の生命現象を解明する上で重要な情報を与えます。したがって、どのような生物活性分子が、どのような生体分子(群)を標的として、どのように作用するかを解明して制御することは、基礎科学および医学・薬学における重要な課題です。
本課題に対して我々は、個々の生物活性分子に対して「機能解析や制御に利用可能なユニット」を化学修飾により導入するアプローチを採り、解決を目指しています。
「ビオチン(左上図)」は標的タンパク質の同定に利用可能なユニットです。同ユニットを用いて、TK-285の標的を明らかにしています(Biochem. Pharmacol. 2021, 194, 114819)。「グルタチオン(右上図)」を連結させると、分子の水溶性が改善されます。強力な抗腫瘍活性示すクルクミンアナログGO-Y030は水に溶けにくい性質を持ちますが、そのプロドラッグとして開発したグルタチオン付加体GO-Y140は水に可溶です(Org. Biomol. Chem. 2016, 14, 10683)。「アルキンタグ(左下図)」を導入した分子は、ラマン顕微鏡により生細胞イメージングすることができます。「ポマリドミド(右下図)」を連結させた生物活性分子は、ユビキチンプロテアソーム系を介して標的分子選択的なタンパク質分解誘導が惹起されることが知られています。以上の四例をはじめ、我々は修飾分子の合成と、同分子を用いた生命機能解析、ならびに創薬化学研究を強力に推進しています。