【発表のポイント】
- シグナル伝達因子を欠損させた培養細胞を用いた研究成果を網羅し、複雑に交差する細胞内シグナル伝達の理解にどのように役に立ってきたか、これまでの研究を概説しました。
- シグナル因子欠損細胞を応用することで、GPCR シグナルを制御する新たな薬理学的ツールの開発アプローチを提唱しました。
【概要】
Gタンパク質共役型受容体(GPCR)(注1)は細胞膜表面に存在するセンサータンパク質であり、オピオイド系鎮痛薬、抗ヒスタミン薬、抗精神病薬など、現在市販されている多くの医薬品の標的となっています。
GPCRは、細胞膜の内側に存在する多数のシグナル伝達因子(注2)を活性化することで細胞内へシグナルを伝達します。しかし数多くのシグナル伝達因子が複雑なネットワークを形成しており、その詳細な解析は困難でした。
東北大学大学院薬学研究科の齋藤郁貴大学院生、木瀬亮次特任助教、井上飛鳥教授らによる研究グループは特定のシグナル経路に関わる複数の遺伝子を同時に欠損した培養細胞を樹立してきました。しかしながら、これらの遺伝子欠損細胞を応用した最先端の研究報告を概説した総説はありませんでした。
本研究グループは、GPCRのシグナル伝達因子の遺伝子欠損培養細胞を用いた研究について、これまでの研究報告を網羅した総説論文を発表しました。本総説論文では、CRISPR–Cas9法による遺伝子欠損培養細胞の作製方法、これまでに樹立されている遺伝子欠損培養細胞株を概説しました。また、これらの培養細胞株を用いた最新の研究を概説しました。本論文により、今後の遺伝子欠損細胞を応用したGPCRの研究が加速し、GPCRの複雑なシグナルネットワークの解明が進むことが期待されます。
本研究成果は、2024年5月8日付(日本時間)で薬理学分野の専門誌Pharmacological Reviewsのオンライン版に掲載されました。
【用語説明】
注1. G タンパク質共役型受容体(GPCR):7回膜貫通型の構造の特徴を有する膜タンパク質であり、細胞外に存在する特定の物質(リガンド)と結合することで、細胞内に情報を伝達する。ヒトには約800種類が存在し、既存薬の約3割がいずれかのGPCRに結合して、薬効を発揮することが知られる。
注2. シグナル伝達因子:本総説論文では、GPCRに直接結合し、GPCRの細胞内シグナル伝達を制御するタンパク質を指す(別名、トランスデューサー)。特に、ヘテロ三量体Gタンパク質、GPCRキナーゼ(GRK)、およびβアレスチンを指す。

【問い合わせ先】
東北大学大学院薬学研究科
教授 井上 飛鳥(いのうえ あすか)
電話 022-795-6860
E-mail iaska@tohoku.ac.jp