薬物送達学分野の歴史

(旧薬剤学講座、分子相関解析学講座)

(東北大学100年史原稿から)

 旧薬剤学講座は、昭和33年6月、新潟大学医学部教授岡崎寛蔵が、初代教授として赴任したことから始まる。岡崎は東北大学附属病院薬局長を兼任し、池田憲助教授、海野勝男助手、石川潔助手らとともに初期の教育研究にあたった。当時は、消化酵素剤、制酸剤、軟膏剤、医薬品の吸湿性や溶解性、溶液中の安定性などに関する幅広い研究が行われた。

 

昭和39年3月岡崎教授が退官し、同40年7月旧薬品分析化学講座教授岡野定輔が後任教授に就任した。研究室では、薬物の分子間相互作用、消化管吸収の相互作用などN-ヘテロ芳香環の特性に関連した基礎的研究や、軟膏の硬度測定法など薬剤学の方法論開発に関連した応用的研究が行われた。

 

昭和55年4月岡野教授が定年退官し、同56年4月旧衛生化学講座助教授鈴木康男が教授に就任した。研究室では、薬物代謝と毒性、裁判化学分析の改良研究、有機リン化合物の毒性、生体膜構造と機能に関する研究が行なわれた。

 

平成8年3月鈴木教授が定年退官し、同年4月東京大学薬学部製剤学講座助教授寺崎哲也が教授に就任した。同11年4月大学院重点化に伴い、旧薬剤学講座、旧分子相関解析学講座(大学院薬学研究科分子生命薬学専攻協力講座)は、薬物送達学分野として改組された。同11年7月寺崎は未来科学技術共同研究センター未来バイオ創製分野の専任教授として配置換えとなったが、引き続き薬物送達学分野教授を兼務している。新しい研究室では、分子生物学と神経科学の手法を導入した血液脳関門輸送機構に関する分子生物薬剤学的研究が行われ、脳へのドラッグデリバリー研究への応用が図られている。物理薬剤学に始まる旧薬剤学講座は、脳科学やゲノム創薬に及ぶ学際領域としての新しい学問を構築すべく、薬物送達学分野としての新しい展開を開始した。